「アリエルのネットワークに侵入される恐れがあります」
本人の名誉のためにMさんとしますが、Mさんからこんな報告がありました。いつも言うことが大げさなので話半分で話を聞きます。
「どういうことですか?」
「iPhoneをなくしました」
なるほど、少しは深刻な事態かもしれません。
「なくしたiPhoneの番号に電話してみればどうですか」
「誰も出ません」
「利用停止できないのですか」
「しました」
「なら大丈夫でしょう」
「停止するまで10時間ぐらいありました。それだけの時間があれば何でもできます」
拾った誰のものとも分からないiPhoneを使って10時間で何でもできるのはあなたぐらいだと思いながら、厭味を込めて聞きます。
「iPhoneにパスワードをかけていなかったんですか」
「かけていますが…」
なんだかけていたのか、ますます大丈夫じゃないかと思っていたら、
「4桁なので簡単に破れます」
4桁のパスワードをないに等しいと言えるのはMさんぐらいであって、普通の人は違います。とは言え、数回試して当たる可能性は否定できません。なので、一応聞いてみました。
「パスワードが破られたとして、それからどうやってアリエルのネットワークに侵入できるのですか?」
そこからMさんの解説が始まりました。途中から訳がわからなくなるほど、複雑な手順と偶然と高度な推論が必要な作業です。一例を挙げると、Mさんの過去のメールの2007年だか2008年の1通のメールが侵入のためのひとつのキーになります。Mさんは大量にメールを受ける人です。少なく見積もって1日100通です。何年分のメールがあるか知りませんが、5年あれば15万通から20万通ぐらいのメールです。この中から、そもそもそんなメールが存在することを知らない第三者がどうやってそのメールにたどり着くと言うのでしょう。Mさんは本気で心配しているのでしょうか。嘘みたいですが、Mさんは常に本気です。
「サーバに怪しいログがないかをすべて確認しました」
どうせ止めてもMさんはやるのです。これでMさんの気が済むなら安いものです。
「それから…」
まだ続くようです。
「なくしたiPhoneのMACアドレスを社内ネットワークで検知したら通知が来るように設定しました」
嘘みたいですが、Mさんは常に本気です。
「それから、社内のパスワードをすべて変更しようかと思うのですが…」
これは全力で止めました。
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