「熊とワルツを」を読みました
随分前に読み始めたのですが、最初の方のページが面白かった割に後半がつまらなくて途中放置していました。ようやく最後まで読みました。全体として書いてあることは正しいと思いますが、個人的に全面的な同意はできません。
本書のテーマはリスク管理です。主張を一言で言うと「幸運の遺伝子を当てにするな」です。
リスクがあると予測しながら何も準備しないのは罪だと説きます。運良くリスクが発生しなくても罪は変わらないと説きます。
リスクの定義を次のように書いています(後半、少し違う定義がありますが、わかりづらいので引用しません)。
リスクの定義 1. 将来起こりうる出来事で、望まない結果を生むもの 2. 望まない結果そのもの
1.が原因で2.が結果です。リスク管理は原因となるリスクを管理します。
リスクを心配するだけは、リスク管理ではありません。リスク管理とは、リスクを分析(発生確率と起きた場合の被害の大きさを見積もる)し、リスクが発生したことを検知できる仕組み(指標)を作り、リスクが発生した場合の対策を準備しておくことです。
と、言うは易しです。できていると胸を張って言える人がどのぐらいいるでしょうか。ぼくはできていません。ありがちなふたつのアンチパターンが耳に痛いです。
アンチパターン1.
対策を考えられそうなリスクだけを挙げて、対策を思いつけないリスクは無視する
よくあるどころか、自分が行うリスク管理はほぼ常に当てはまっているのでないか、と思うぐらい耳が痛い話です。
でもしょうがない、とも反論したくなります。キーマンが明日死んだら、とか考え出すとキリがありません。どうせどうしようもないなら考えるコストの方がムダだと思います(このような態度こそが本書で徹底的に批判される態度そのものですが)。
もちろん、無視してよいリスクもあると本書は説きます。次のようなリスクです。
1. 実現の確率が無視できるほど小さい 2. 万一実現した場合、現在管理している仕事など、たいしたことではなくなる 3. リスクの影響がきわめて小さく、軽減する必要がない 4. 他人のリスクである
アンチパターン1の派生として「成功のための管理」しかしない、というのがあります。ここでの「成功のための管理」は次のように表現されるものです。
「成功のための管理」 リスク管理はしていないが、いつもリスクに注意し、リスクが発生しないようにしている
リスク管理よりも成功のための管理の方が好ましく思えるのは、後述する前向き思考の文化にいるからかもしれません。起きそうな不幸な出来事があれば、起きないように対策を十分に練り、後は運を天に任せる、というのはいつもの話です。
アンチパターン2.
前向き思考、やればできる文化、挑戦欲
上の用語はプラスな印象を持つ用語ですが、リスク管理には反すると説きます。リスク管理はマイナス思考で、できないかもしれない、失敗するかもしれない、と考えることから始めます。なんとかなる、やればできる、というプラス思考ではありません。このような企業文化を端的に表現したのが次の一文です。
間違えるのはかまわないが、不確かなのはだめだ。
更に言い替えて次のようにも書いてあります。
遅れたことに対して後から「赦し」を請うのはかまわないが、遅れることに対して前もって「許し」を求めてはならない
アリエルもこの文化でしょう。始める前から弱音を吐いても仕方ないからです。やってダメならそれは仕方ありません。このような、やればできる文化がリスク管理をできなくする、と本書は説きます。
一見もっともらしいのですが、総論としては同意できません。幸運の遺伝子を信じている方が幸せです。
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